Case Report · 001

重度側弯症 37歳男性 身長125cm

4方向からの実像——臨床写真と計測データが語る、変形の本質

A word from the founder · 所長より

この症例報告を世に出すにあたり、まず最初にお伝えしなければならないことがあります。

この方は、ご自身の背面・正面の写真と、踵骨傾斜角の計測データを、AGGTプロジェクトが世界に公開することを許可してくださいました。ご本人とご家族の、大きな決断です。

私はこの資料を手にした時、魂が震えました。この症例に真剣に向き合えない臨床家は、現場にいらないと思うほどに。

AGGTは、どれほど一生懸命治療してもすぐに元に戻ってしまう——その30年来の疑問から生まれました。踵からのズレを調整して重心軸を整えるというアプローチは、まだ道半ばの仮説です。しかし物理科学から導き出された数値は嘘をつきません。だから私は、さまざまな実践を積み重ね、世界中の皆さまとともにこの仮説を検証し、高めてゆきたい。

この症例報告は、その出発点です。ご家族の信頼に応えるためにも、私は誠実であり続けたい。

富山 正樹 · AGGT主宰 · 鍼灸マッサージ師
With deepest respect

公開を許可してくださった方へ

この症例報告に掲載されているすべての写真と計測データは、ご本人とご家族の明示的な許可のもとに公開されています。ご自身の身体を世界中の施術家・研究者の検証に委ねてくださったこのご決断は、AGGTプロジェクトにとってかけがえのない贈り物です。

この報告が、同じように身体の不自由と向き合う方々の、少しでも助けになりますように。

Case #001

Profile

患者プロフィール
年齢37歳 男性
身長125 cm
主訴・病態重度側弯症
日常生活座位中心
施術頻度週3回(歩行訓練25分)
計測日2026年4月
AGGT Eye ProαR = 4.7° / αL = 3.3°
信頼度30% (黄色警告)
01Case Presentation

症例提示:4方向からの実像

Clinical photographs and measurement data reveal the essence of deformity

症例提示:重度側弯症 37歳男性 身長125cm
Commentary · 所長からの一言

背面写真を見てください。脊柱の変形は一目瞭然です。重力軸は著しく乱れています。それでもこの方は、立ち、歩き、笑っておられます。

普段は座位中心の生活で、移動には介助が必要です。週3回の施術の中で、25分間の歩行訓練を行っています。まず私が立ち上がらせ、前半は私が前方から前傾姿勢を防ぎながら歩いてもらい、後半は横について体幹をできる限り正中位に整えながら、一緒に歩きます。彼はこの歩行訓練の時間を、ご自身で大切にしてくださっています

正面の写真で、この方は穏やかに笑っておられます。この笑顔を見るたびに、私は臨床家としての姿勢を問い直されます。介入には根拠が必要だ、と。

AGGT Eye Pro v2.13.2による計測結果は αR = 4.7° / αL = 3.3°。信頼度は30%(黄色警告)。この数値が、今からお伝えする臨床的思考の出発点になります。

02Theoretical Background

代償運動(Compensatory Movement)の理論的背景

"Visible symptoms" vs "root cause" — the rehabilitation science perspective

代償運動の理論的背景
Commentary · 所長からの一言

代償運動(Compensatory Movement)という概念は、ロシアの生理学者ニコライ・ベルンシュタイン(Bernstein, 1967)が提唱した「運動自由度の過剰性(redundancy)」理論に根ざしています。中枢神経系は、一次的な機能障害を補うために、無数の代償パターンから一つを自動採用します。

短期的には、これは転倒を防ぎ、日常動作を可能にする生存戦略です。しかし長期化すると、二次的な変形・疼痛・筋骨格疲労の原因にもなります。

本症例では、右踵骨の αR = 4.7° が起点となり、頸部(右側屈+前傾)、胸椎(後弯+右回旋)、腰椎(左側弯による補正)という連鎖が形成されています。見かけ上は「左への傾き」が現れていますが、これは結果であって原因ではありません。

03Clinical Reasoning

AGGTによる介入根拠:「勇気が要る介入」を物理が支持する

A dialogue between clinical intuition and theoretical values

Balancer v3.1 演算結果と段階的アプローチ
Commentary · 所長からの一言

見えている傾きは左側です。通常の臨床的判断であれば、左側を支えようとするかもしれません。しかしAGGTの計測は、真逆の方向を示しています——起点は右踵。物理的な根拠が、見かけとは逆方向の介入を支持するのです。

これは「勇気が要る介入」です。見かけに反する判断を、患者さんとご家族、そして他職種の方々に説明しなければならない。だからこそ、数値という共通言語が必要でした。

剛体モデル(d = H × tan(α))による計算値:右重心偏位 d_R = 102.8 mm(αR=4.7°)、左重心偏位 d_L = 72.1 mm(αL=3.3°)、左右差 30.7 mm。推奨補正厚は右4.1mm/左2.8mmですが、これはあくまで理論値です。臨床では 1〜2mm の補正材から段階的に開始し、歩行変化を観察しながら進めます。複雑な症例では、数値を鵜呑みにせず、患者さんの身体と対話しながら一歩ずつ進むことが大切です。

※スライド画像はBalancer v3.1(旧バージョン)の画面です。2026年4月16日にKinetic Engine v2.0(Khamis & Yizhar 2007 実測伝達率準拠)へ改訂し、Balancer v4.0として公開済みです。運動連鎖モデルによる推定値は上記剛体モデル値と異なります。

04What AGGT Offers

AGGTが提供するもの:臨床的思考の補助装置

What no posture assessment tool in the world has explicitly said yet

AGGTは診断機器ではない、臨床的思考の補助装置である
Commentary · 所長からの一言

このスライドは、AGGTの立ち位置を最も正確に言語化した一枚です。「このツールは診断機器ではない。治療家が自分の判断を検証するための、臨床的思考の補助装置だ。」

これまで臨床家は、「この介入で本当に正しいのか」という不安を、感覚と経験だけで乗り越えるしかありませんでした。補正材を入れる前と後で、何が変わったかを客観的に確かめる手段がありませんでした。特に重度の症例や、代償パターンが複雑な患者さんでは、直感と見た目だけでは判断が困難でした。

AGGTは、補正材挿入の前後で重心軸の変化を数値とCOSMO EYE(3D可視化)でその場で確かめられるようにします。疑心暗鬼のまま進むのではなく、根拠を持って次の一手を打てる。30年かけて培った臨床直感を、数値が裏打ちしてくれる。それがAGGTの役割です。

05From Practice to Theory

実践から理論へ:世界規模のデータ集積が科学を更新する

This is the next stage — and AGGT's true goal

臨床実践→データ集積→科学的蓄積→新しい理論
Commentary · 所長からの一言

AGGTは、一人の臨床家の経験則ではありません。それでは30年の臨床経験とともに消えてしまいます。世界中の治療家・研究者・患者さんとともに、症例と計測データを蓄積していくことで、やがて「統計的な傾向」「パターン」が浮かび上がり、仮説が検証されていく——それが AGGT の本当のゴールです。

CC BY-SA 4.0でオープンライセンス化しているのは、このためです。知識は人類の共有財産であり、独占されるべきものではありません。世界中の施術家が同じツール、同じ計算式、同じプロトコルで計測し、結果を持ち寄ることで、やがて実践は科学的蓄積になり、新しい理論にまで昇格されていく——この循環こそが、AGGTが目指す未来です。

北九州から始まります。そして、あなたの街にも届きますように。

06Technical Architecture

技術構成:AGGT Eye Pro v2.13.7

A heel angle measurement system that runs entirely in a smartphone browser

AGGT Eye Pro v2.13.2の技術仕様
Technical Note

AGGT Eye Proは、ブラウザ上のJavaScriptだけで完結する踵骨傾斜角計測システムです。サーバーサイド処理はなく、すべての解析はユーザーのデバイス内で行われます。つまり、撮影した写真がサーバーに送信されることはありません。プライバシー保護の観点からも、この設計は重要です。

主要な計算式は極めてシンプルです:d = H × tan(α)。身長(H)と踵骨傾斜角(α)から、重心偏位量(d)を算出する三角関数の直接適用です。この式自体は数学的事実であり、議論の余地はありません。

角度検出にはSobelエッジ検出とヒストグラム投票法を用い、v2.13.2では0.5°刻みの角度分解能と隣接ビン平滑化を実装しました(分解能とノイズ耐性の両立)。現行 v2.13.7 ではさらに誠実さ注記・暫定値明示を追加しています。実環境での頑健性はまだ検証途上です。スライド画像はv2.13.2時点のものです。

07Known Limitations

臨床運用から判明した課題

Clinical deployment started in April 2026

課題A:背景ノイズによる検出失敗/課題B:撮影条件による計測値のばらつき
Honest Disclosure · 正直な開示

このスライドは、AGGTの技術的な未熟さを正直に開示するものです。隠しません。

課題A:背景ノイズによる検出失敗。花柄カーペット、柄のある靴下、複雑な背景家具がある環境では、Sobelエッジ検出が背景テクスチャを大量に拾い、踵の輪郭エッジが埋もれてしまいます。信頼度スコアで警告を出す仕組みは実装済みですが、根本的な解決には至っていません。

課題B:撮影条件による計測値のばらつき。同一患者で撮影距離を変えると、近距離ではα=3.0°、遠距離ではα=1.0°と検出されることがあります。ガイド枠による撮影範囲の統一を導入しましたが、再現性の定量評価はまだ未了です。

画像処理・AI分野の専門家の方々に、解決策のヒントをいただけると幸いです。

08Detection Pipeline

現在の検出パイプライン(v2.13.7)

Processing stages and remaining challenges

画像取得→グレースケール化→画像分割→Sobelフィルタ→角度ヒストグラム→平滑化→支配角度抽出→パース補正→信頼度評価
Technical Note

検出パイプラインの9段階を公開します。このレベルの実装詳細をオープンにする理由は、研究者の方々が「どの段階に改善の余地があるか」を評価できるようにするためです。独占するためではなく、共同改善のために公開します。

特に第4段階(Sobelフィルタ)と第5段階(角度ヒストグラム)は、v2.13.0→v2.13.1→v2.13.2の改善過程で多くの試行錯誤がありました。0.5°刻みに分解能を上げた時、弱い信号環境で検出不能になる現象に遭遇し、隣接ビン平滑化で解決した——という経緯は、開発ストーリーとして別途記録しています。スライド画像はv2.13.2時点のものです。

09Call for Collaboration

共同研究の可能性について

We seek expert knowledge in image processing and AI

研究テーマ候補と協力形態の提案
Invitation · ご招待

AGGTは、一人の臨床家と、AIとの対話から生まれました。そしてここから先の段階では、画像処理・AI分野の専門的知見が不可欠です。

研究テーマ候補として:スマートフォンカメラによる足部アライメント計測の精度検証、深度カメラ(LiDAR)を活用した3D踵骨角度推定、リアルタイム姿勢解析システムの開発、背景セグメンテーションによる検出ロバスト性の向上——これらのいずれかに関心のある研究者・学生の方がいらっしゃいましたら、ぜひご連絡ください。

臨床データは、ご本人・ご家族から公開許可を取得済みの症例を匿名化してご提供できます。修士・博士の研究テーマとしても歓迎いたします。

まずはお気軽に、ご意見・ご指摘からお寄せください。

10Items Under Verification

検証を求めている項目 — 類推データとしての正直な説明

"In the absence of accumulated heel tilt data, we present these as analogical data"

K係数、α閾値、信頼度閾値の検証待ちステータス
The Most Important Slide · 最も重要なスライド

このスライドは、AGGTプロジェクトで最も重要なものかもしれません。なぜなら、「何がまだ検証されていないか」を正直に開示しているからです。

運動連鎖伝達率(Kinetic Engine):スライド画像はv1.x(K1=0.7/K2=0.5/K3=0.3)のものです。2026年4月16日に Kinetic Engine v2.0(Khamis & Yizhar 2007, Gait & Posture の実測伝達率 T1=70%/T2=59%/T3=38% に基づく)へ改訂しました。いずれのバージョンも「理論的推定値」であり、実際の伝播率は個人差・病態により変動する可能性があります。臨床データによる検証を求めています。

α閾値(年齢別許容角度):姿勢制御能力の加齢変化に関する既存研究(Era 2006, Goble & Baweja 2018等)からの類推に基づく仮説モデルです。「姿勢動揺の加齢変化は実証済み → だから補正可能なαも加齢とともに低下するはず」という論理的類推ですが、直接的エビデンスではありません。

信頼度閾値(70%/30%):テスト撮影から経験的に設定した検出品質の判定基準です。70%未満で黄色警告、30%未満で赤色警告を表示します。様々な撮影条件での最適閾値は未確定です。

AGGTは、これらの数値を「確立された真実」として提示するのではなく、「検証を求めている仮説」として提示します。世界中の皆さまと、症状と踵偏位角度の数値データから検証してゆきたいと思います。どうぞ、データ蓄積へのご協力をお願いいたします。

Download · 資料のダウンロード

症例報告書の完全版をダウンロード

上記の10スライドは、以下のファイルとしてもご利用いただけます。研究・教育目的でのご活用を歓迎します(CC BY-SA 4.0)。

Call for Participation · 世界中の皆さまへ

AGGTは、あなたの参加で完成します

AGGTは、一人の臨床家が世に問うた「道半ばの仮説」です。世界中の施術家・研究者・患者さんの検証と批判によって、はじめて意味のあるものになります。

臨床家の方へ

ご自身の患者さんで AGGT Eye Pro をお試しください。計測結果、介入方針、経過をご共有いただけると、私たちの理解が深まります。

研究者の方へ

K係数・α閾値・信頼度閾値の検証にご協力ください。修士・博士の研究テーマとしても歓迎します。共同研究のご相談を歓迎いたします。

画像処理・AIの専門家へ

背景セグメンテーション、撮影条件ロバスト性、LiDAR活用など、技術的課題への知見をお寄せください。

患者さん・ご家族へ

AGGTをご自身の身体でお試しいただけます。感じた変化、感じなかったこと——どちらも貴重な情報です。

Important · 正直にお伝えすべきこと

AGGTは治療効果をお約束するものではありません。踵の傾きを補正することで膝の内側負荷が4〜12%減少することは、複数の研究で示されています(Arnold 2016のメタ分析など)。しかし「痛みが減る」かどうかは、大規模研究で確認されていません(Parkes 2013, JAMA)。

物理的に負荷は減る。しかし効く人と効かない人がいる。その見分け方を、世界中で一緒に見つけていきたいのです。