EVIDENCE · 014

測るのではなく、確かめる

AGGTの測定で、踵に一本の線を引きます。踵が地面に触れる中点から、距骨下関節へ、そして膝裏の方へ。
けれど、この一篇は、まず正直に、白状することから始めます。
わたしは、この距骨下関節を、どこに採ればいいのか――いまでも、本当には、分かっていません。
一般の人に医学的な計測を届けたくて、機械に任せようとしました。その夢は、潰えました。
それでも、患者の前で手を止めるわけにはいかない。分からないなりに、たった一つ思いついた手がかりを頼りに、いちばん確からしい一点を探しています。
やれることは最大限やり、届かないことには手を出さない。推論と、科学的な現実を、分けて書きます。

この記事の位置づけ この記事は、AGGT(重力軸誘導療法)が、自分たちの測定の足場を、そのまま記した一篇です。特定の治療効果を主張するものではなく、診断や治療の代わりになるものでもありません。確かなことには🟢、推論・要確認のことには🔴を付け、施術者の主観的な「実感」は、事実とも推論とも分けて別の枠で記します。混ぜません。
ONE
第一章

白状します ― この関節を、どこに採ればいいのか、分からない

まず、正直に、白状します。距骨下関節――踵の骨(踵骨)と、その上の距骨のあいだにある、足の要の関節。この関節を、後ろからの一枚の写真の上で、どこに点を置けばいいのか。わたしには、確たる答えが、いまでも、ありません。

🟢 これは、力不足ではない
距骨下関節の運動軸は、斜めに走り、その向きは人によって大きく違います(Krähenbühl ら, 2017)。皮膚の上から触っても、後ろからの写真を見ても、この関節の中心を一点に定めるのは、極めて難しい。分からないのは、わたしの力不足ではなく、この分野の、実態そのものです。

わたしは、この「分からない」を、隠しません。分からないものを、分かったふりで埋めることこそ、してはならないことだからです。

TWO
第二章

機械に任せる夢と、それを捨てた決断

では、なぜ、分からないなりに、手で採るのか。ここに、AGGTの、いちばん大きな決断があります。

わたしは、ずっと、機械の自動計測を追い求めてきました。理由は、一つ。一般の人に、医学的な計測の手を、届かせたかったからです。専門家でなくても、スマートフォン一台で、自分の身体を測れる。その夢を、必死に、求めてきました。

けれど、その夢は、潰えました。機械が自動でつけるマークが、あまりに適当で、わたしは、言葉を失ったのです。いい加減なマークの上に数字を積めば、それは、嘘になる。嘘をつくくらいなら、届けるという夢のほうを、手放す。 そう決めました。捨てなければ、前に進めなかった。

機械を捨ててでも、手で採る。
それは、嘘をつかないための、決断でした。

THREE
第三章

分からないなりに、たった一つ思いついた手がかり

手で採ると決めても、距骨下関節がどこにあるかは、やはり分からない。だから、推定する術を、必死に探しました。文献も検索しました。でも、確証は、得られなかった。

ならば、と、道理に立ち返りました。骨は、自分では動きません。骨や関節の向きを整えているのは、いつでも、そのまわりを支える筋肉と腱です。 では、踵の骨と距骨を支えているのは、何か。それを考えたとき、思い浮かんだ手がかりが、一つだけありました。

🟢 わたしが選んだ、一つの手がかり
主要な抗重力筋の中で、姿勢の制御にダイレクトに働き、そして踵の骨(踵骨)に付いている――その下腿三頭筋(ふくらはぎの筋肉)と、その延長にあるアキレス腱。それをキーにするしか、ありませんでした。正直、それくらいしか、思いつかなかったのです。だから、線を膝裏まで延ばし、この下腿三頭筋の中央部の、いちばん確からしい流れを思い描く。その流れに素直に乗るとき、かかとと距骨下関節は、どこに置かれているのが自然か。あちこちの見えかたを重ねて、その最大公約数として、置きどころを探しています。

一つ、正直に添えます。距骨下関節を内や外へ返しているのは、じつは、この筋一本ではありません。下腿から足へ渡る、いくつもの腱の綱引きです。だから、下腿三頭筋やアキレス腱が「この関節を動かす唯一の筋だ」とは、言いません。ただ、後ろから見えて、姿勢制御に直に働き、踵骨に付く手がかりとして、わたしにはこれくらいしか思い浮かばなかった――その、正直な由来です。

FOUR
第四章

けれど、「一致する」とは言わない ― 科学的な現実

この下腿の流れを、手がかりにする。けれど、わたしは、「この流れが、身体の抗重力の軸と、一致している」とは、言いません。手がかりにすることと、二本が同じ一本だと言うことは、別のことです。

独立した検証者(Manus)に、出典とともに確かめてもらって、二つの面から、はっきりしました。

🟢 後ろから見ると ― 別々(作りの違い)
垂直の重力線・ふくらはぎの中央・わたしのオレンジ線(踵骨の傾きを測る線)は、後ろから見て、別々の三本です。距骨下関節の斜めの運動軸、アキレス腱の下のほうの捻れ(中心軸は踵骨の長い軸と一致しない)、すねの骨のねじれ、筋肉の形の個人差――もともとの作りが、三本をずらします(Manus 独立検証, 2026/Krähenbühl 2017/Bordoni & Varacallo 2024)。
🟢 横から見ると ― 前と後ろで、別々(力学の必然)
そして、これが決定的です。立ったとき、身体を真下に下ろした重力線は、足首よりも、わずかに前を通ります。だからこそ足首には前へ倒れる力が生じ、ふくらはぎが後ろから引いて、それを止めている(Hall『基礎バイオメカニクス』)。重力線は前、ふくらはぎは後ろ。ふくらはぎが抗重力筋であるその仕組みそのものが、ふくらはぎのラインが重力線と重ならない理由です。

だから、この流れが抗重力の軸と一致するかは、文献では確かめようがなく、横から見ればむしろ別。わたしは「一致する」とは書きません。手がかりにするのは、道理に沿った工夫であって、証明ではないのです。

手がかりにはする。けれど、一致するとは、言わない。

FIVE
第五章

これが、正味の姿

では、飾らず、正味の姿を、まとめます。

やれることは、最大限やる
機械を捨て、専門家が自分の目と手で、一点一点を置く。分からないなりに、骨を動かすのは筋腱だという道理に沿った手がかり(下腿の流れ)を重ねて、置きどころの最大公約数を探す。同じ手順で、繰り返し置き、一貫させる。
届かないことには、手を出さない
この流れが抗重力の軸と一致するとは、証明しようとしない(確かめようがないし、横から見ればむしろ別)。研究室の三次元スキャンや超音波にも、いまは手を伸ばさない。スマートフォン一台で現場を回る、いまのAGGTの姿ではないからです。
分からないことは、分からないと言う
距骨下関節をどこに採ればいいのか、いまでも確たる答えはない。文献も確証がない。この「分からない」を、隠さない。手がかりは道理に沿った工夫であって、証明ではない――そう、はっきり分けて書く。
臨床の実感(事実とも推論とも、分けて記します) 線を膝裏まで延ばし、下腿三頭筋の中央部の流れを想定して、かかとと距骨下関節の置きどころを重ねると、いちばん無理のない一点が、見えてくる感じがする。これは、施術者の主観的な実感です。否定されません。否定されたのは「この線=抗重力の軸」という等式だけです。ただし、この実感は証明とは別のものですし、踵の角度を重力との関係で見る見方そのものが、まだ新しいものです。だから、実感は実感として、道理は道理として、力学は出典として、それぞれ別の札で並べて置きます。
CODA

分からない、と認めること

距骨下関節を、どこに採ればいいのか。わたしは、いまでも、本当には分かりません。一般に届ける夢を追い、機械の限界の前に、それを手放しました。それでも、分からないなりに、道理に沿った、たった一つの手がかりを頼りに、いちばん確からしい一点を探しています。

AGGTは、この線に、実際より多くを語らせません。測って、整えて、また測って、確かめる。 何ができて、何ができないか。何が分かっていて、何が分からないか。それを、隠さず、分けて書く。分からないものを分からないと認めるのは、強いからではありません。ただ、嘘をつかない、というだけのことです。

分からないものを、分からないと認める。
それでも、手は止めない。
――やれることを最大限、届かないことには手を出さない。

REFERENCES

参考文献

本稿で参照した主な文献を挙げます。いずれも、AGGTのスマホ写真とは測定方法が異なる研究値であり、「世の中の地図」として参照したものです。本稿の科学的な核心(下腿の流れと抗重力の軸は、後ろから見ても横から見ても重ならない)は、独立検証パートナー(Manus)との相互検証を経て到達した見解です。

🟢 確かなもの
1. Krähenbühl N, Horn-Lang T, Hintermann B, Knupp M. The subtalar joint: A complex mechanism. EFORT Open Rev 2017;2(7):309-316. DOI:10.1302/2058-5241.2.160050.
2. Bordoni B, Varacallo M. Anatomy, Bony Pelvis and Lower Limb: Gastrocnemius Muscle. StatPearls, 2024.
3. Hall SJ. Basic Biomechanics. 8th ed. New York, NY: McGraw-Hill; 2019.(重力線は足関節のやや前方を通り、下腿三頭筋がそれに抗する)
4. Physiopedia. Gastrocnemius.
5. Physiopedia. Centre of Gravity.
6. Manus(独立検証パートナー). 後方立位における下腿アライメントと重力線に関する独立検証回答書. 2026.

🔴 骨を動かすのは筋腱だという道理から、下腿三頭筋・アキレス腱の流れを距骨下関節の位置採りの手がかりに選んだこと、および施術者の主観的な実感は、道理に沿った工夫・あるいは主観であり、特定の一本の筋腱がこの線と一致するという証明ではありません。AGGT自身の臨床的検証はこれからの課題です。

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本稿の位置づけについて 本稿は、AGGTが自分たちの測定の足場を、そのまま記した一篇です。距骨下関節の位置を一点に定めることが極めて難しいこと(🟢確立・Krähenbühl 2017)、そのため自動計測をやめ専門家の手修正に切り替えたこと(AGGTの決断)、骨を動かすのは筋腱だという道理から下腿の流れを手がかりに選んだこと、そしてこの下腿の流れ・下腿三頭筋の中央・身体の重力線は、後ろから見ても(作りの違い)横から見ても(重力線は足首の前・ふくらはぎは後ろ)重ならないこと(🟢確立)を、明確に分けて記しています。

下腿の流れを距骨下関節の位置採りの手がかりに選んだことは、骨を動かすのは筋腱だという道理に沿った工夫であって、特定の一本の筋腱がこの線と一致するという証明ではありません。距骨下関節を内外に返すのは下腿から渡る複数の腱の働きです。本稿は、症状の診断や治療効果を保証するものではありません(🔴未検証)。

引用した各文献の数値・結論は原論文を典拠とし、本稿における解釈はAGGTの見解であって、各研究者の主張そのものではありません。本稿で示した解釈は、AGGTおよび独立検証パートナー(Manus)との相互検証を経て到達した見解をもとに構成しています。

ライセンス:CC BY-SA 4.0 / AGGTとは先人から受け取ったバトン