CASE 001

17年間、
週に3回会い続けている人のこと

訪問マッサージという仕事を通じて、
ひとりの人とずっと一緒に歩いてきました。
その中で生まれた、ものさしの話です。

ONE

彼と私は、長いつきあいです

彼は37歳の男性です。重度の側弯症があり、ふだんは座って過ごす時間がほとんどです。ひとりで立ち上がることはできません。

私は訪問マッサージの施術者として、彼のもとに週3回通っています。最初にお会いしたのは、彼が20歳のお誕生日を迎えるころでした。それから17年間、ずっと続いています。

訪問するたびに、25分ほどの歩行練習をします。まず私が彼を立ち上がらせます。前半は私が彼の前に立って、前に傾きすぎないように支えながら歩いてもらいます。後半は私が彼の横について、体をできるだけまっすぐに整えながら、一緒に歩きます。

彼はこの歩行練習の時間を、ご自身で大切にしてくださっています。

歩行訓練の場面 左に立つ施術者(白髪・少し屈み気味)が右隣の方の身体に寄り添い、まっすぐに支えながら一緒に歩いているイメージイラスト 歩行訓練のイメージ — 身体を寄せ合って、まっすぐ歩く
TWO

ずっと感じていた、ひとつの疑問

私は鍼灸マッサージ師として30年以上、たくさんの方のお体に向き合ってきました。その中でずっと消えない疑問がありました。

どんなに一生懸命治療しても、すぐに戻ってしまう。根本のところに、何か見落としているものがあるのではないか。

その疑問に、ひとつの手がかりを与えてくれたのは、先人の知恵でした。人の姿勢と歩き方について学ぶ機会があり、そこで「体の歪みは、かかとという土台から始まっているかもしれない」という考え方に出会いました。

家を建てるとき、土台が少しだけ傾いていると、上に積み上がる柱や屋根が大きく傾いてしまいます。人の体も同じなのではないか——そう思って、スマホの写真一枚からかかとの傾きを測れる道具を作ってみようと考えました。

それがAGGT Eyeです。

THREE

彼のかかとを、測ってみました

17年間通い続けている彼にも、この道具で測らせていただきました。

計測結果

身長
125 cm
右のかかとの傾き
4.7°
左のかかとの傾き
3.3°
計測の信頼度
30%

※「信頼度30%」というのは、計測条件が少しむずかしかったということです。彼はふだん前かがみで立たれるため、機械にとっては判定がむずかしい測定環境でした。所見と照らし合わせながら、何度も計測を重ねています。

FOUR

かかとの傾きは、上に伝わっていきます

積み木を想像してみてください。いちばん下がほんの少し傾いていると、その上に積んでいく積み木も、順番に傾いていきます。

人の体も似ています。かかと、足首、膝、股関節、骨盤、腰、胸、首——体の中を下から上へ、力はバトンのように伝わっていきます。

下のアニメーションは、そのつながりを描いたものです。再生ボタンを押してみてください。

土台から上へ、ひとつずつ影響が伝わっていくしくみ

医学の専門用語では「運動連鎖(うんどうれんさ)」と呼びます。要するに、「下がずれると上もつられる」ということです。

FIVE

彼の体は、彼なりの工夫をしていました

彼のかかとの傾きを、この運動連鎖にあてはめてみると、興味深いことがわかりました。

まっすぐ上に伝わるのではなくて、彼の体は途中で少しずつ向きを変えているのです。腰のあたりでたわみ、胸のあたりでまた別の方向へ。これは彼の体がバランスを保つために、自分で見つけた工夫のかたちです。

彼の体は、バランスを保つために、こんなふうに工夫しています

私はこのたわみ方を、17年のあいだ手で感じてきました。それを「誰が見てもわかるかたち」で示せるようになったのは、つい最近のことです。スマホとAIが仕事の道具として加わり、私にはわからない三角関数を解きほぐしてくれたおかげです。

SIX

並べてみると、違いが見えます

左側に、力がまっすぐ上に伝わる理想の体。右側に、彼の体。並べて見ると、どこで体がどう工夫しているかが、ひと目でわかります。

同じ起点から、力の伝わり方にはいろいろなかたちがあります

これは「いい体」と「悪い体」の比較ではありません。彼の体は、彼なりの答えを出しています。AGGTがやっているのは、その答えをさまざまな道具で記録・分析して、次にどうしたら少しだけ楽になるかを一緒に考えるための材料を揃えることです。

SEVEN

真上から見おろすと

AGGTには「COSMO EYE(コスモ・アイ)」という道具があります。体を真上から見おろすイメージで、体の中心がどこにあるかを描き出してくれます。

体の中心を、高い場所から見おろしたイメージです

青い点が理想の体の中心。赤い点が今の彼の中心です。

訪問のたびに彼のとなりにいれば、前に大きく傾いていること、絶えず体をゆすっておられることは、すぐにわかります。この重心バランスのズレが、彼のしんどさの背景のひとつである可能性は十分にあると感じています。ただ、それが「原因である」と断言することはできません。けれどコスモ・アイが数値と映像でそれを客観化して突きつけてくると、改めてたじろぎます。察していたことが、ものさしによって逃げられない数字になる。それがこの道具の役割です。

EIGHT

わかっていることと、まだわからないこと

正直なことをお伝えします。

AGGTは体を治す道具ではありません。測る道具、記録する道具です。今の体がどうなっているかを、数字と絵で示すためのものさしです。

「かかとを少し整えると、上の体も変わるのか」——これは、まだ世界中で答えが出ていない問いです。海外の大きな研究でも、「物理的には力のかかり方が変わることは確かめられているけれど、楽になる人とならない人がいる」ということがわかっています。

だからこそ、AGGTを無料で世界中に公開することに決めました。ひとりの施術者が見てきたことだけでは、答えは出ません。世界中でたくさんの方の体を測り、記録を積み重ねていくことで、「どんな人にどんな整え方が合うのか」が少しずつ見えてくるかもしれない。

彼と17年間歩いてきた時間が、その最初の一歩のきっかけをくれました。

※本ページで紹介した計測値や係数は、AIとの対話を通じて構築した暫定的な目安です。臨床経験や学術研究に基づいて確立されたものではありません。今後の検証によって修正・更新される前提で公開しています。なお、2026年4月16日に運動連鎖モデルの計算エンジンを Kinetic Engine v2.0(Khamis & Yizhar 2007 実測伝達率準拠)に改訂しました。過去の計算値と異なる場合があります。

週に3回、17年間。
これからも。

このページを読んでくださりありがとうございます。ご本人とご家族が公開を快く許してくださったおかげで、みなさまにお伝えすることができました。