彼は37歳の男性です。重度の側弯症があり、日常生活は座位中心で、自力での立位保持・起立は困難です。
| 項目 | 内容 |
|---|---|
| 年齢・性別 | 37歳・男性 |
| 身長(実測) | 125 cm |
| 主な所見 | 重度側弯症、前傾立位姿勢 |
| 日常生活動作 | 座位中心、自力起立不可 |
| 移動 | 通常は車椅子。歩行訓練では介助下で両手杖使用、もしくは術者が横に寄り添いつつ支え歩き |
| 介入形態 | 訪問マッサージ(週3回) |
| 介入期間 | 17年間(20歳頃より継続) |
| 歩行訓練 | 毎回約25分 |
私が彼のもとに通い始めたのは、彼が20歳のお誕生日を迎えるころでした。以来17年間、訪問マッサージという制度のもとで週3回の介入を継続しています。
彼はべったりと座り込んだ状態から自力では立ち上がれません。まず私が彼を立位にします。
前半は私が彼の前方に位置し、前傾姿勢の増悪を防ぎながら歩行させます。後半は同程度の距離を、私が彼の側方につき、体幹をできる限り正中位に矯正しながら並行歩行します。
彼はこの歩行訓練の時間をご自身で大切にしてくださっています。
鍼灸マッサージ師として30年以上の臨床の中で、ずっと感じてきた疑問がありました。どれだけ丁寧に介入しても、症状はすぐに元に戻る。対症療法の繰り返しに、根本的なアプローチの欠如を感じていました。
転機になったのは、先人の知恵から姿勢と足部の関係を学ぶ機会を得たことです。ニーイントゥーアウトに代表される下肢アライメントの概念を知り、「身体の歪みの起点は、踵骨の傾斜にあるのではないか」という仮説に至りました。
この仮説を定量的に検証するための計測ツールが、AGGT Eye Proです。
踵骨傾斜角(α)と全身アライメントの関連については、私自身がこの1年ほどの間に学んだ知見であり、30年の臨床経験から導き出されたものではありません。計測ツールの数理モデル(d = H × tan(α))はAIとの協働により構築されたもので、私自身が三角関数に精通しているわけではないことを明記しておきます。
17年間通い続けている彼に、AGGT Eye Pro v2.13.x での計測を実施しました。
| 計測項目 | 結果 |
|---|---|
| 右踵骨傾斜角(αR) | 4.7° |
| 左踵骨傾斜角(αL) | 3.3° |
| 左右差 | 1.4°(右>左) |
| 信頼度 | 30% |
| 総合3D偏位(剛体モデル d=H×tan(α)) | 102.0 mm |
| 推奨補正厚(右) | 4.1 mm |
| 推奨補正厚(左) | 2.8 mm |
信頼度が低い主な要因は、彼の常態である前傾立位姿勢にあります。AGGT Eye Proは後方からの全身撮影を標準プロトコルとしていますが、前傾が大きい場合、エッジ検出の対象となる踵骨輪郭のコントラストが低下し、ソフトウェア上の信頼度が下がります。機械にとって判定がむずかしい測定環境です。
初回計測時は信頼度0%(検出不可)でしたが、撮影角度と照明条件の調整により30%まで改善しました。臨床所見との照合を前提に、複数回の計測を重ねています。
踵骨の傾斜が上位関節にどう伝播するかを、下肢から脊柱までの8関節で示したものが、以下のアニメーションです。
踵骨→足関節→膝関節→股関節→仙腸関節→腰椎→胸腰椎移行部→胸椎の8段階伝播モデル
踵骨の傾斜は距骨下関節を介して足関節に伝わり、膝関節への内反・外反ストレス、股関節での傾斜増幅、仙腸関節を経由して脊柱に到達します。各関節は前の関節からの入力を受けて、次の関節に力を伝えます。
運動連鎖(Kinetic Chain)の概念自体はバイオメカニクスにおいて広く確立されています。ただし、踵骨傾斜角(α)から各関節への定量的な伝播率(伝達率)は、Khamis & Yizhar (2007, Gait & Posture) の実測値を基礎として構築した Kinetic Engine v2.0(2026年4月16日改訂)による推定値であり、臨床データによる検証は行われていません。世界中のデータ蓄積による検証を求めています。
彼の運動連鎖には、直線的な伝播ではなく、複数の代償が観察されます。
右踵4.7°の傾斜は、膝関節への内反ストレスを経て股関節で増幅され、仙腸関節から脊柱に入力されます。腰椎レベルでは左側弯としての代償が現れ、胸腰椎移行部で顕著な屈曲変位(「折れ曲がり」)が発生しています。胸椎レベルでは後弯の増強と右回旋が観察されます。頸椎は頭部を水平に保つための最終代償として前傾しています。
腰椎での左側弯代償 → 胸腰椎移行部での屈曲変位 → 胸椎の後弯+右回旋 → 頸椎前傾
私はこの代償パターンを、17年のあいだ徒手的に感じてきました。それを視覚化し客観的に記録できるようになったのは、つい最近のことです。AIが数理モデルを構築し、スマホが撮影と解析を担い、私の手の感覚を補完してくれるようになりました。
彼の代償パターンは、重度側弯症に対する彼自身の身体が長年かけて獲得した姿勢戦略として理解できます。AGGTの役割は、この代償の構造をさまざまな道具で記録・分析し、どの部位にどのような介入が有効かを検討するための客観的材料を提供することです。
理想的な運動連鎖(力が直線的に上方伝播するモデル)と、彼の代償パターンを並置します。
左:理想(直線伝播) / 右:彼の実態(代償を伴う伝播)
この比較は、正常と異常の二項対立ではありません。彼の身体が自律的に到達した姿勢戦略を可視化したものです。臨床介入の目標は、この代償構造を理解した上で、どの関節レベルへの介入が最も効率的にバランス改善に寄与するかを検討することにあります。
そしてAGGTの観察システムが示そうとしているのは、かかとの傾斜が重心軸にどれだけ関与しているか、ということです。
あくまでも想像の域を出ない話ですが、ひとつだけ付け加えさせてください。重力は上方から体軸に沿って加わりますが、歩行時には地面反力(GRF)が反作用として下方から加わります。踵骨はその双方向のベクトルの通過点に位置しています。もし踵の傾斜角がGRFの伝達方向に影響しているとしたら、歩行訓練の質そのものに関わってくる可能性があるかもしれません。AGGTは、そういったことを考えるための可視化装置でもあります。
COSMO EYE(コスモ・アイ)は、身長・左右α値・踵幅から3Dの重心軸偏位を算出し、前方・側方・俯瞰の3ビューで可視化するツールです。
骨構造・循環動態・消化器系への影響イメージ(3層レイヤー切替式)
| COSMO EYE 出力 | 値 |
|---|---|
| 総合3D偏位(剛体モデル d=H×tan(α)) | 102.0 mm |
| 理想軸からの水平距離 | 右前方への偏位 |
| 最大応力集中レベル(AI推定・未検証) | T12-L1(胸腰椎移行部) |
訪問のたびに彼のとなりにいれば、前傾の大きさ、絶えず体をゆすっておられることはすぐにわかります。この重心バランスの不均衡が、彼のしんどさの背景のひとつである可能性は十分にあると感じています。ただ、それが「原因である」と断言することはできません。
しかしコスモ・アイが数値と映像でそれを客観化して突きつけてくると、改めてたじろぎます。臨床で感じてきたことが、ものさしによって逃げられない数字になる。それがこの道具の臨床的意義です。
骨構造レイヤーは計測データに基づく解析ですが、循環動態レイヤーと消化器系レイヤーは重心偏位からの影響を視覚的にイメージしたものであり、実際の臓器圧迫や血流変化を計測・診断するものではありません。AIの論理的類推であり、臨床的検証はされていません。
この症例記録に含まれるデータと解析の根拠レベルを、誠実に明示します。
| 項目 | 根拠レベル |
|---|---|
| d = H × tan(α) による偏位算出 | 確立(三角関数に基づく幾何学的事実) |
| 踵骨傾斜と下肢アライメントの関連 | 研究支持(バイオメカニクス文献で概念は確立) |
| 運動連鎖伝達率(Kinetic Engine v2.0) | 仮説段階(Khamis & Yizhar 2007 実測値基礎、臨床検証待ち。2026/4/16改訂) |
| COSMO EYE 循環・消化器レイヤー | AIの論理的類推(臨床的検証なし) |
| インソール介入による痛み軽減 | 集団レベルでは未確認(Parkes MJ et al. JAMA 2013;310(7):722-730) |
AGGTは治療法ではなく、計測ツール・共同検証プラットフォームです。「かかとを整えれば治る」とは言いません。「かかとの傾きと全身の姿勢をものさしで記録し、世界中のデータを積み重ねることで、どんな人にどんな介入が有効かを検証していく」——それがAGGTの立ち位置です。
彼と17年間歩いてきた時間が、このプラットフォームの最初の一歩のきっかけをくれました。
Parkes MJ et al. (JAMA 2013) が検証したのは「外側ウェッジインソール」の「内側型変形性膝関節症」に対する痛み軽減効果であり、AGGTが扱う踵骨中立化とは目的・方向が異なります。生体力学的な荷重変化は確認されたものの、痛みの改善は集団レベルでは確認されませんでした。後続研究(Schmalz et al. 2022)では、内反変形が軽度な患者ほど効果が大きいことが示されており、「誰に効くかを見分ける」手段の必要性を裏付けています。
※本ページに掲載した計測値・係数・判定基準は、AIとの対話を通じて構築した暫定的な目安です。臨床経験や学術研究に基づいて確立されたものではありません。今後のデータ蓄積と検証により修正・更新される前提で公開しています。なお、2026年4月16日に運動連鎖モデルの計算エンジンを Kinetic Engine v2.0(Khamis & Yizhar 2007 実測伝達率準拠)に改訂しました。過去の計算値と異なる場合があります。
このページを読んでくださりありがとうございます。ご本人とご家族が公開を快く許してくださったおかげで、みなさまにお伝えすることができました。
データの蓄積にご協力いただける臨床家・研究者の方を募集しています。AGGTの全ツールはCC BY-SA 4.0で無料公開されています。